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COLUMN

2024年6月

音に意識を向ける

25年くらい前に、フランスの演出家・映画監督のパトリス・シェロー(1944-2013)に会って取材したときに、彼がこんな一言を発したことがあった。

「いつもBGMをかけている人を私は信用しません。なぜならその人は聞こえていても聴いていないからです」

四六時中、ながら聴きが当たり前だった私にとって、この言葉はショックだった。

シェローによれば、音楽を聴くときはちゃんと集中して聴くべきであって、そうでなければ何も音楽をかけるべきではない、というのだ。

彼はクラシック音楽ばかりでなく、クイーンやプリンスが好きだと言っていたが、それらも気軽に楽しむというよりは、ひどく真剣に聴いてきた様子がうかがえた。

 

8年ほど前に、世界最大級のクラシック音楽祭「ラ・フォル・ジュルネ」のアーティスティック・ディレクターのルネ・マルタンに南仏プロヴァンスで取材したときには、コンサートでの音楽の聴き方について、こんな発言があった。

「音がこちらに向かってくるのを待っているのではなく、自分から音を取りに行かなければなりません」

いまスマホやPCを介してインターネットからの情報量は圧倒的なものがある。刺激的な音や映像や言葉が、ぼうっと待っているだけで恐ろしい勢いで流入してくる。退屈なら指で軽く撫でて次の画面にすればいい。

このような過剰な情報摂取と、受け身でいることへの慣れは、感受性の麻痺を招きかねない。

注意深く音に意識を向けて、音の美しさや楽しさを、貪欲に味わおうとすること。

静寂を前提とするクラシック音楽は、そうした「積極的に聴く力」の回復にも最適な場でもある。

 

来たる7月22日(月)には、クリークホールに初めてお邪魔して、「人はなぜ、その音を『いい』と感じるのか」という題でお話させていただくことになっている。

これは正直、禅問答のようなテーマで、「おいしいとは何か」「美しいとは何か」と同じくらい、結論の出ない問題である。

だが、最近、世界的音響設計家の豊田泰久さんとの対談本を出版し(大好評で発売後4か月で増刷が決定した)、その後も豊田さんとイベントなどでご一緒する機会がときどきあって、「いい音」について考えるきっかけを多く得ることができた。

その中には、「なるほど、こういうことに注意して耳を傾ければ、誰でもクラシック音楽をより深く味わえるきっかけになるのだな」と思うポイントもいくつかあった。

今回のクリークホールでの講演では、選り抜きの音源をご紹介しつつ、そうした「いい音」についての楽しいお話をさせていただけたらと思っている。

​林田直樹

DSC_0122.JPG

2016年夏のプロヴァンス出張時に撮影。当地ではシェーブルチーズ(ヤギの乳のチーズ)は、季節の果実やハーブや粒コショウを添え、オリーブオイルをかけて食べることが多い。食も音楽も、貪欲に味わうことはすべての大前提である。

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